福岡地方裁判所 昭和33年(ヨ)334号 決定 1958年9月04日
申請人 並木敬吾 外一名
被申請人 九州電力労働組合
主文
被申請人は申請人等が被申請人の組合員であることを認め申請人等の組合員としての権利の行使を妨げてはならない。
(注、無保証)
(裁判官 大江建次郎 美山和義 竪山真一)
【参考資料】
仮処分命令申請
申請の趣旨
一、被申請人組合は、申請人両名を被申請人組合の組合員として取扱わなければならない。
二、被申請人組合は、昭和三十三年九月十二日に被申請人組合で行われる全労連代議員及び評議員選挙に申請人両名が代議員として立候補することを妨げてはならない。
申請の理由
一、(当事者)被申請人組合は、九州電力株式会社(九電とよぶ)の社員で組織している労働組合であり、下部組織として、八支部と十直属分会を有し、上部組織として、全国電力労働組合連合会(電労連とよぶ)に加盟している。組合員数は約一万七千八百名である。
申請人並木敬吾は九電工務通信課勤務の社員で、被申請人組合本店分会に所属している組合員である。申請人宮崎満利は九電福岡支店福岡営業所技術課勤務の社員で、被申請人組合福岡支部福岡分会に所属している組合員である。
二、(紛争の経過)九電に勤務している社員は、使用者側に属する非組合員を除く全員が、かつて、日本電気産業労働組合(電産とよぶ)九州地方本部に所属していたが、昭和二十七年末頃から九電社員で電産を脱退する組合員が現われ、右脱退者によつて、昭和二十七年十二月十七日に、被申請人組合が結成された。それ以来、九電社員は電産九州地方本部に留つた組合員と被申請人組合に加入した組合員とに別れていた。昭和三十二年六月五日、六日に行われた第十一回電産九州地方大会において、九州地方における電産の組織を解散し、電産九州地方本部所属の組合員はすべて被申請人組合に加入することが決定され、同年七月から、八月にかけて、電産九州地方本部所属の組合員は、全員被申請人組合に加入した。
申請人両名は九州地方における電産組織の解散まで、同組合の組合員であつたが、電産九州地方大会の右方針に従い昭和三十二年七月頃被申請人組合規約第六九条に規定する手続をふんで被申請人組合に加入する手続をとり、被申請人組合の組合員になつて、現在にいたつている。申請人両名は、被申請人組合に加入して以来、被申請人組合の組合員としての義務を果たす反面、被申請人組合の組合員としての権利も認められてきた。一例をあげれば、申請人等は組合規約第六五条二項に従つて現在まで組合費を納入してきたし、昭和三十三年六月の被申請人組合第六回本部定時大会のときは、申請人は両名とも、代議員として右大会に出席し、組合員としての権利を行使した。
右のようにして、昭和三十二年七、八月頃電産組織を解散して被申請人組合に加入した組合員も、被申請人組合の組合員として完全な権利義務を認められてきたのであるが、被申請人組合は、昭和三十三年八月十一日の第十一回本部執行委員会において昭和三十二年七月以降電産から被申請人組合に加入してきた者については「組合員としての加入を取消し」て、組合員としての資格を認めず、それらの者にたいしては、組合加入届を返戻し、あらためて一定の条件を認めた者についてのみ再加入を認めるという決定をなした。さらに被申請人組合は、同年八月二十二日に傘下各支部及び直属分会にたいして、昭和三十三年九月十二日被申請人組合で行われる予定の電労連評議員及び代議員選挙における選挙権及び被選挙権を、昭和三十二年度に行われた統一以前に九電労の組合員だつた者及び統一後の新規採用で組合員として承認された者に限つて認める旨の指令を出した。したがつて、右のいずれにもあたらない申請人両名は、昭和三十三年九月十二日に被申請人組合で行われる予定の電労連評議員、代議員選挙において、選挙権及び被選挙権の行使を認められないことになつた。
三、(申請人等を組合員として取扱わず、選挙権及び被選挙権を奪うことの違法性)被申請人組合の組合規約では、組合員には「如何なる場合に於ても、人種、宗教、性別、門地又は身分などによつて組合員たる資格を奪れない。又差別をしない」(第六条)という保障があり、正規の機関の正規の手続による場合以外は、組合員としての権利義務を奪われないことになつている。被申請人組合のいうような「加入の取消し」によつて、組合員としての資格を奪われるようなことはあり得ない。しかるに、被申請人組合は、何ら正当な機関の正当な手続を経ることなく、申請人等を被申請人組合の組合員として取扱わない旨を決定し、かつ申請人等の選挙権被選挙権を認めないという方針を下部に指令している。このような被申請人組合の措置は、被申請人組合規約の精神、とくに第六条、第六五条に違反しており、申請人等の組合員としての資格と権利を不当に侵害するものであるから、無効である。
四、(仮処分の必要性)申請人等は組合規約にもとずく組合員としての資格を擁護し、選挙権、被選挙権を確保するために、被申請人組合員を相手に、組合員としての資格確認及び選挙権被選挙権確認の本案訴訟を提起するように準備している。しかし申請人等が組合員として取扱われないことは、申請人等の団結権にたいする重大な侵害であり、経済的な面においても、労働金庫を利用できない等の不利益に直面する。とくに申請人両名は、昭和三十三年九月十二日に被申請人組合で行れる予定の全労連評議員代議員選挙に代議員として立候補しようとしているのであるが(立候補締切は九月四日)、被申請人組合は申請人等に立候補の資格がないものとして、申請人等が立候補するに必要な手続をとることを拒否する等の手段で、申請人等の立候補を妨害している。こういう有様で、右本案訴訟の判決を待つていては、申請人等は将来回復することのできない損害を蒙るおそれがあるので、右本案判決に至るまで、申請の趣旨記載のとおりの仮処分命令を求め、本申立に及ぶ。